あべこべ魔法学校のクリスマス
ここは魔法の国。
無いものが存在し、かなわない夢が現実になる。右が左で、上が下。昨日が明日で、明日が昨日。あべこべの魔法世界。
そんな魔法の世界の子供たちは、「魔法国立あべこべ魔法学校」に通うことになっています。あべこべ魔法学校は、魔法世界の真ん中からちょっとはずれたところに建っていて、お城みたいに立派なレンガ造りの校舎を持っています。でもお城のようといっても……想像力貧困な人間界の私たちが思うような白亜の城ではなく、今にもお化けが飛び出してきそうな、くらーい、おどろおどろしい大きな校舎です。その校舎の周りには、つたの這った石造りの囲いがぐるり回っていて、立派な鉄の門がついています。生徒の人数は999人。いつだって人の溢れるにぎやかな学校ですが、鉄の門が開かれたことは一度もありません。だって、「きちんとした正しい入り口」から学校に入ろうなんて生徒はいやしないのですから。
この魔法国立あべこべ学校は、まさにあべこべ。遅刻するものほど褒められて、不良生徒が優等生。シャツの裾をきちんとズボンにしまったりなんかしたら、たちまち先生に叱られてしまいます。「何やっているんだい!そんなきちんとした格好をして!」
登校の時だって、正門から入るなんて問答無用。立派な石の塀に魔法で穴をぶち開けたり、北の方の特別高い塀をほうきでひらりと飛び越えたり、四方八方から生徒がやってくるのです。
そんな中、正門で一人の生徒が叱られていました。
「正門から入るだって!馬鹿じゃないの?」
――――本当は魔法の国の言葉で「利口なんじゃないの?」と言っているのですが、それでは浅識な人間にはわかりづらいと思われるので意訳しています。――――
あべこべ学校の風紀委員(風紀を乱す人を褒め称え、規則正しい人を取り締まる委員です)が声を張り上げます。
「何でですか?正門から入るのが一番道理に適っているでしょう?ここから行くのが校舎にだって一番近いし、塀を飛び越えていくなんて、お行儀が悪すぎます」
叱られている生徒だって負けていません。
「『理に適っている』!『お行儀』?やめてくれよ!そんな言葉、聞くだけで寒気がする!」
真っ赤な髪をおかっぱにしたちっちゃな風紀委員は、魔法学校の生徒にふさわしく今日もだらしなーい格好です。彼の身体には2サイズは大きいと思われるだぼだぼのジャケットにシャツ、ずるずるのズボン。それをどうにかウエストの位置にとどめているサスペンダーだって、かたっぽが肩からずり落ちています。
「そうやそうや。俺たちだからまだええようなもんの、そんな言葉をセンセが耳にしたら、怒られるでえ。毎朝毎朝、懲りないもんやなあ」
もう一人の風紀委員もいつから櫛を入れていないのかわからないような真っ黒の髪を、肩の辺りまで伸ばしっぱなしにしています。シャツの裾を半分だけ外に出して、ブーツも左右で違います。彼のかけているメガネだって、よくよく見ればレンズがないのです。
「もう。とにかく!どいてください。
僕は誰が何と言おうと、正門から登校することを自らの規律として課しているのです」
「規律ぅ?」
魔法の国では「規律」なんてきちんとした言葉を聞いたら、誰だって飛び上がってしまいます。だらしない風紀委員二人が身を寄せ合ってあとずさった隙に、叱られていた生徒はどうにか正門を開けようとしました。しかし、それも毎朝のこと、押しても引いても門は開きやしません。
「んぐぐぐぐぐぅーっ。
まったく……この門は僕がこの学校に通い始めてから一度として開いたことがない!」
それもそのはず、このあべこべ魔法学校の名誉ある校長先生、ミス・スミレ・竜崎が強力な魔法をかけて、絶対に開かないようにしているのですから。
仕方ないので、この規律正しいおちこぼれ生徒は、いつものように門の下のわずかな隙間をくぐり抜け、コートや鞄を埃だらけにしてやっと敷地内に入ることができました。
「ああ!せっかく昨日の晩にアイロンをかけたのに……」
愚痴を言いながら上着をはたく指先は、ほっそりとして真っ白。手入れを欠かさない桜貝のような爪はつやつや光っています。乱れた髪を直すために取り出した鏡に映るのは長いまつげと、ばら色の頬。くるくるゆるく巻いた短い髪は、今日も完璧です。彼の名前は観月はじめ。あべこべ魔法学校始まって以来の―――劣等生なのです。
「よう、きょうもやってるな?」
観月が校舎に向かって歩き出すと、一人の生徒が声をかけてきました。観月はいやそうに顔をしかめます。
「他人ごとだと思って!」
観月に並んで歩くは、褐色の肌に真っ黒の髪をした背の高い男子生徒です。今は真冬だって言うのに、あべこべにアロハシャツを着て、ビーチサンダルを履いています。
「あなたそれ、寒くないんですか?」
「寒いよ」
「バッカみたい!」
そういいながらも、観月は見てるだけで震えてきそうな軽装の男子生徒の首にマフラーを巻きつけてやりました。
「おお!これはあったかい!」
うれしそうに、顔をうずめる彼の名前は赤澤吉朗。あべこべ魔法学校での成績は真ん中よりちょっと上のごく普通の生徒。そして、観月の大切な恋人です。
「当たり前でしょう?バッカみたい!」
観月は「バカ」と二度も言ったくせに、赤澤に歩調を合わせたまま、彼の手を取って歩き出しました。
……どうやら、いくら「規律を重んじる」「道理に適ったことしかしない」劣等生でも、こういうところは、あべこべになってしまっているようです。
さて、観月はあべこべ魔法学校の劣等性なので、授業だって寝ることなく、最初っから最後まできちんとノートを取っていますし、いつも五分前行動です。そうしてついに先週、連続百回無遅刻記録を打ち出してしまいました。そんな生徒には世にも恐ろしい、学校にある全部のトイレ掃除一ヶ月の罰則が科せられます。
トイレ掃除が恐ろしいってどういうこと?と人間のあなた方は思うでしょうが、そこはこのあべこべ魔法学校、トイレひとつとっても、一筋縄じゃあいきません。
「ブラシにモップ、さあ床を磨いて!
ほら!ホースはそんなむやみに水をばら撒かない。
何事も効率よく、完璧に」
観月は魔法のタクトを振りながら、トイレ掃除におおわらわです。しかし、このあべこべ魔法学校の掃除用具がすぐに使う人の命令を聞くなんてことありえません。洗剤のボトルは窓の外にシャボン玉を撒き散らしますし、とうとう聞き分けのないホースが観月に水を浴びせかけました。最後には観月の堪忍袋の緒も切れます。
「あななたち。そんな聞き分けの無いようだったら、魔法で原子レベルに分解してしまいますよ!」
観月はタクトを一振りして、濡れてしまった服を掃除婦のユニフォームに変身させました。ウエストがきゅっと締まった水色のワンピースに、白いエプロン。三角巾が踊るように頭に巻きつき、革靴は青いゴム長靴に変わります。
「バカとはさみは使いよう。
掃除が退屈な仕事だって誰が言いました?」
観月はあべこべ魔法学校では劣等生といわれていましたが、人一倍の狡猾な頭脳と魔法センスを兼ね備えているのは本当です。ひめりんごの実みたいにつやつやした彼の声が、モップたちにささやきます。
「ほら、音楽が聞こえるでしょう?」
観月が右手を耳に当てて、左手でタクトを振ると、どこからか楽しそうな管弦楽が聞こえてきます。次第にその音は大きくなって、最初は戸惑っていた掃除用具たちも楽しそうに曲にあわせて動き出しました。
「そう。その調子!
あべこべのこの世界では、トイレがコンサートホールで、掃除用具のあなたたちは一流のダンサー。
床を磨いて、水で流して。
退屈な仕事こそ、人生のエンターテイメント!」
なんだか観月も楽しくなってきてしまって、くるくると回りながらホースやブラシに指示を出します。そうするとスカートがふわりふわりとひらめいて、時々ひざ小僧がのぞきます。
「西校舎のトイレも、東校舎のトイレも目を覚ましてください!
さあ、あなたたちのためのパーティですよ」
観月の魔法で学校中の掃除用具が踊りだします。三十分後にはどこのトイレもつるつるのピカピカになっていました。
「完璧です!」
観月は自分の仕事にとっても満足しました。
と、ふと気付くと、掃除用具入れに収まったはずのブラシがひとつ、床に放り出されています。
「おやおや。取り残されてしまったのでしょうか?」
観月がそのブラシを手にとって掃除用具入れのドアを開けると……。
「きゃあああ!」
なんとドアの向こうは真っ暗闇。さっきまでモップやホースの並んでいた掃除用具入れは時空の狭間への入り口になってしまっているではないですか!
物凄い力が観月を暗闇へ引き入れようとします。どうにか足を踏ん張って耐えますが、どうにもこうにも。とうとう彼は足を滑らして、闇の中へ落っこちそうになりました。
「誰か助けて!」
そんな時、観月のおなかの辺りを長い腕ががっしと捕まえてくれました。
「大丈夫か観月?」
「赤澤!」
その腕の持ち主は、トイレ掃除を負かされた観月を心配して、手伝いに来てくれた赤澤でした。観月の恋人はどうにかこうにか彼を救い出すことに成功したようです。
二人で力をあわせてドアを閉めると、そのまま観月は呪文を唱えて、しばらくそこが開かないように封印しました。
「いやあ、間一髪だったなあ!」
「ああ、危なかった……」
あべこべ魔法学校だけでなくても、水の近くが異界への入り口になってしまうことはよくあることです。トイレや、調理室、理科室、噴水、池。そんな場所の近くでは一瞬の油断が命取り。噴水の近くで行方不明になった生徒が、一月後、髪の毛がわかめみたいになって発見された、なんていうのも珍しい話じゃありません。
だから、トイレ掃除も敬遠されていて、規則正しい生徒への罰則としての仕事にされているのです。
「ところで、今はクリスマスの飾りつけの最中じゃあなかったんですか?こんなところまで来て、僕に何の用です?」
「ああ、そうだ、応援を頼みに来たんだ」
図らずも、明日はクリスマス。魔法の国でもクリスマスは盛大なお祝い事です。何で聖なる主キリストの誕生日をあべこべな魔法学校の悪い子達が祝うのかって?答えは簡単。実はミスター・ジーザス・キリストは魔法の国出身の人だからです。彼が魔法の国の人であるのはマリアさんのご懐胎を見れば明らか。処女が赤ちゃんを孕むなんて、まったくもってあべこべじゃあありませんか!
人間の国では「聖なる夜」として祝われるクリスマスは、魔法の国の「もっとも俗っぽい夜」としてあちこちでパーティやらお祭りやらが開かれる大騒ぎの一晩なのです。街角では人間界の聖歌隊の代わりに、ロックなファッションのお年寄りたちがラウディナイト、ワードリーナイトとシャウトします。魔法国立あべこべ魔法学校も例に漏れず、明日への準備に向けて余念がないのですが……。
「飾り付け用の黒いリボンやら、悪魔の人形やらがぜんぜん足りないんだ。ろうそくも。みんなで魔法で用意してもおっつかないくらいでてんやわんや。
観月も手伝ってくれ」
「まったく……これだから計画性の無い人達は!」
今年の赤澤はクリスマスの飾りつけの指揮を取るリーダーです。栄えある役割なのですが、何しろ生徒みんながあまのじゃくなので、デコレーションは遅々として進みません。観月と赤澤は校長先生のところまで、今の状況を報告しに行きました。
校長室は学校でも一番低いところにあります。ながーいながーい螺旋階段を地下深くまで下っていって、やっと分厚いマボガニーの扉に行き当たります。その扉を開けると、ミス・スミレ・竜崎校長が、たかーい天井に据え付けられた椅子に座って、さかさまのテーブルに山積みにされた書類に目を通していました。なので観月と赤澤は先生の前に出るために箒に乗って天井まで浮かび上がらなければなりません。
「どうしたんだい?おまえたち」
「すみれちゃん、困ったことになったんだ」
ここでは、偉い人にほど、ぞんざいに話しかけるのが礼儀なのです。でも観月は、どうしても敬語が抜けません。
「クリスマスの飾りつけが間に合いそうにないのです」
「ふむ、困ったねえ……」
いくらあべこべの魔法の国の人たちだって、やっぱりパーティやお祭りは大好きなのです。校長先生も今日は心なしか豪華なドレスを着ています。ただし、裏表が逆ですが。
「どうしようか?」
赤澤も困り顔です。
「ふうむ……。不二に頼んでみるのはどうだろうかね?あの子だったら、学校全部の飾り付けだってちょちょいのちょい!に違いない」
「不二君、ですか」
観月はしし唐を食べたときみたいに顔をしかめました。不二周助は観月の一番苦手な魔法使いだったからです。
「ところで観月」
竜崎校長は部屋を出て行こうとする観月を呼び止めます。
「何でしょう?」
「お前、その掃除婦みたいな格好でトイレ掃除をしたのかい?」
「はい、そうですが」
「掃除のときに掃除婦の格好なんて、なっちゃいないね。
汚れる仕事をするときはタキシードでも着てやるのが、この学校の正しい生徒のあり方だよ」
「はあ……」
どうやら観月の白いエプロンは、竜崎校長のお気に召さなかったようです。
みんなが上へ下へ大騒ぎの中、不二周助は噴水の上で優雅に紅茶を飲んでいました。どうやって噴水の上でティータイムが過ごせるのかというと、彼の魔法の力でテーブルや椅子、茶器にいたるまでがぽっかりと浮かび上がっているからです。
「二人ともどうぞかけて」
不二はにっこりと笑って二人に席を勧めました。赤澤と観月はすすめられるまま、席に腰を下ろします。
「二人ともお茶は何がいいかな?
アールグレイ?ダージリン?それともオレンジペコ?」
そう言う不二が持っているカップの中は真っ赤です。おそらく砂糖の変わりに唐辛子の粉がたっぷり入っているのでしょう。テーブルの上を見ると、砂糖壷の中には一味唐辛子、ジャム瓶の中にはわさびがたっぷり詰め込まれています。
二人はお茶を断って、話を切り出しました。
「クリスマスの飾りつけが間に合いそうにないんだ。
どうにか手伝ってくれないか?」
「ええ。僕からもお願いします」
「フーン?」
不二の目はいつもにっこりと閉じられていて、開かれることはめったにありませんが、このときばかりはわずかばかりに開眼していました。
「たしかに僕がこの学校で、一番優秀な生徒なのは確かだけどね」
そのとおり。不二周助は、あべこべ魔法学校で一番優秀な生徒―――つまり、この学校で、一番魔法の力が強い生徒なのです。それだけでなく、普段の行いもあまのじゃくであべこべ、大切なテストの日には優雅に自主休校、一回も時間通りに行動したことのない超マイペースで模範的な生徒だったのです。
「クリスマスにドイツにいる恋人に会いに行くのは前から計画していたことなんだ。
明日のパーティ、僕は欠席させてもらうつもり。
残念ながら、手伝う気はないよ」
あべこべ魔法学校で一番優秀な生徒は、にべもなく二人の申し出を断りました。なに、あまのじゃくな彼のこと、ドイツの恋人に会いに行くという話も今思いついたに違いありません。しかし、これ以上の説得は無理そうなので、観月と赤澤は肩を落として噴水を後にしました。それに比べて不二の楽しそうなことといったら。どうやら自分の思い付きがたいそう気に入ったようで、きっと今晩中にでもドイツに旅立とうと思っているのでしょう。
「困ったなあ……」
「困りましたねえ」
赤澤と観月は頭を抱えますが、どうにもなりません。飾り付け係の生徒たちが急ピッチでろうそくやリースを作り出しますが、間に合いそうにもないのです。ここはもう最後の手段を使うしかない!と、観月は勇気を出して言いました。
「きちんと役割を決めて、効率的にやれば、どうにか間に合うかもしれません」
「何だって?」
赤澤はビックリしてしまいました。観月は赤澤の可愛い恋人ですが、この学校に入学したときから真面目で規則正しくて、とんでもないおちこぼれです。彼にとってはそんなところも観月らしくて大好きだったのですが、周りの生徒からは煙たがられていました。そんな観月が「きちんと」「効率的に」やれなんていっても、誰も言うことを聞かないでしょう。
「無理だよそれは。みんな選り抜きのあまのじゃくばかりだぜ?」
観月は食い下がります。
「でも、パーティはやりたいんでしょう?ここはひとつ我慢して、僕のシナリオどおりに動いてもらうしかないです」
「うーん。うまくいくのかなあ……」
赤澤は今ひとつ乗り気じゃありません。
大講堂の中では、足りないリボンをあっちへ引っ張り、こっちへ引っ張り、喧嘩が始まっています。観月はひとつため息をつくと、講堂の正面の壁に据え付けてある大時計の前まで箒にまたがって上っていきました。魔法のタクトをくるりと振ってメガホンを呼び出します。胸にひとつ息を吸い込んで大きな声で言いました。
「皆さん!聞いてください!」
たくさんの生徒たちは何事かと声の主を見上げます。しかし、それが観月だと分かると、学校一の劣等性が何を言い出すのかといぶかしげな顔になりました。
「こんな様子じゃ、明日のパーティが台無しですよ!」
「そんなことはわかってらい!」
以前噴水から異界に飛ばされて、髪がわかめみたいになってしまった男の子の生徒が目を真っ赤にしながら言い返します。
「そうです。皆さんもお分かりのとおり、このままじゃパーティでトナカイの姿焼きを食べるのも、トカゲのカクテルを飲むのもできそうにありません」
「そんなのいやだ!」
今まで一回も学校にズボンを穿いてきたことのない、金髪の男の子がトランクス丸出しで叫びます。
「だから、今こそみんなで協力し合って、効率的に準備を進めようではありませんか」
「なんだって!」
観月が彼の提案をメガホンで叫ぶと、講堂中からブーイングが起きました。
「協力だって!ありえねーな。ありえねーよ!」
「効率的!そんな恐ろしい言葉、おじいが口にも出すなって教えてくれたぜ?」
「僕たちが協力しあうだなんて、それこそあべこべですっ!」
しかし観月はひるまず、わが意を得たりとにっこり微笑みました。水色のスカートの裾がひらりと風を受けます。
「そのとおり。
僕たちが協力して効率的に仕事を進めるなんて、まさにあべこべ。
でも、いつもよりもあべこべのあべこべで、道理に適わないあまのじゃくな行為ではありませんか!
その上、パーティまで成功するときてる。
これこそ、最高のあまのじゃくです」
最初はみな狐につままれたような顔をしていましたが、一人の銀髪の生徒がうなずきながら「そうかもしれんのう」と言います。さらに、その隣のメガネの生徒がうなずき「なんだかペテンのようですが、ともかくパーティができれば結構じゃないですか」と言いました。最後にはみんなでそうだ、そうだの合唱になり、そこに観月の声が響きます。
「さて、では急ぎますよ!
背の高い人は高いところの飾り付けを、まだまだ成長途中のあなたはテーブルクロスを広げて。
魔法が得意な人こそじゃんじゃんオーナメントを出してくださーい!」
観月のデータに基づいた的確な指示で、終わらないとみえたクリスマスの準備は、またたくまに整ったのでした。
「すごいな観月!」
そこらじゅうをミツバチみたいに飛び回って指揮をしていた観月が仕事を終えて赤澤の元へ戻ってくると、彼は自分の恋人の活躍がとっても誇らしくって、すぐさまぎゅっと抱きしめました。
「疲れました……」
しかし、さっきまで力強く張り切っていたとみえた観月が、赤澤の腕の中でぶるぶる震えています。
「どうしたんだ、こんなに震えて」
「だって、とっても怖かった!」
「観月……」
「皆が僕の言うことに耳も貸してくれなかったらどうしようって思うと、足が震えて止まりませんでしたよ!
僕は劣等生だけど、無事あなたの仕事を手伝えてよかった」
もう赤澤には優等生も劣等生も関係ありません。ただ、自分の最高の恋人が誇らしくてたまらなくなり、小さくキスをしたのでした。
「思えば僕は掃除婦の格好のまんまじゃあないですか!」
「忙しかったからなあ」
「ああ、情けない、こういうときこそのりのパリッときいた真っ白のシャツで……」
「そうか?今日の主役らしい、質素な装いじゃないか」
そう、ここは魔法の国。
無いものが存在し、かなわない夢が現実になる。右が左で、上が下。昨日が明日で、明日が昨日。あべこべの魔法学校。
学校一のおちこぼれ生徒は思いもかけない活躍で、大きな賞賛を得たのでした。
2006.5.1加筆修正
キリスト教徒も仏教徒も神を持たないあなたにもメリークリスマス。
年末のこの日、いつもより少しでも皆が幸せでありますように。
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